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大津地方裁判所 昭和24年(行)6号 判決

原告 松本ふね 外三名

被告 滋賀県知事

一、主  文

被告が昭和二十三年十二月二十日附を以て別紙第一目録乃至第四目録記載の各農地につきなした買収処分の無効確認を求める部分につき原告等の請求を棄却し、右買収処分の取消を求める部分につき、本件訴を却下する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「被告が昭和二十三年十二月二十日付買収令書により別紙第一目録乃至第四目録記載の各農地についてなした買収処分は、いずれも無効なることを確認する。もし無効でないときはこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、原告松本ふねは別紙第一目録中末尾記載の滋賀県東浅井郡虎姫町大字宮部字西楽千五百十二番の田一反八歩を除く爾余の農地、同松本みゑは同じく第二目録記載の農地、同中川かつえは同じく第三目録記載の農地、同草姥美代子は同じく第四目録記載の農地の各所有者であるが、訴外虎姫町農地委員会は昭和二十三年十月二十二日前記目録記載の各農地(字西楽千五百十二番の田一反八歩はこれを原告ふね所有農地として)及び原告美代子所有の他の農地について自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第一号、第六条の二及び五に基いて買収計画を樹立した。そこで原告等は右農地委員会に対し異議申立をしたが、同年十一月二十日却下されたので、更に同月二十九日訴外滋賀県農地委員会に訴願したところ、同委員会は同年十二月二十四日原告美代子の訴願の一部(原告美代子所有の本件農地以外の農地に関する部分)のみを容認してその余を全部棄却する旨の裁決をなし、而して被告は前記買収計画に基き買収の時期を昭和二十三年十二月二日とする同年同月二十日付の各買収令書によつて右各農地の買収処分をなし原告等は昭和二十四年一月二十八日右令書の送達をうけた。

自創法第八条及び第九条によれば、農地買収計画につき異議訴願があつたときは、これらについて決定または裁決があつた上で都道府県農地委員会の承認を得、その承認があつた後でなければ買収することができない旨が規定されている。然るに本件買収処分は上敍の如く、訴願裁決以前たる昭和二十三年十二月二十日附買収令書によつて行われているのであるから、買収処分の前提要件たる訴願裁決及び県農地委員会の承認を欠くものであることは明かであつて前記自創法第八条及び第九条に反してなされた無効のものといわねばならない。なお、本件字西楽千五百十二番の田地については、「西楽」なる字は実在しない虚無の土地であり、仮りにそれが字「西薬」の誤まりであるとしても字西薬千五百十二番の農地は原告「ふね」の所有ではないから、これを同人の所有農地とし買収したことも亦違法である。

よつて原告等はそれぞれ右各買収処分が無効なることの確認を求めると共に、かりに当然無効でないとしても取消さるべき違法の処分であるから、予備的にこれが取消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、

被告の答弁に対して本件各農地につき当初昭和二十三年十月二日を買収期日とする買収計画が樹立され、原告よりこれに対する異議、訴願があつて同年十月十八日訴願棄却の裁決がなされたこと、その後右買収計画は取消され買収期日のみ十二月二日と変更した本件買収計画が立てられたこと、昭和二十三年十二月一日県農地委員会において本件買収計画の承認決議があつたことはいずれもこれを認めるが、右農地委員会の承認は訴願裁決前になされたものであるから有効の承認があつたものとはいえない。また被告主張の如き附帯決議のなされたことはなく、かりにそのような決議があつたとしても、原告等の前の訴願と後の訴願とはその内容を異にしているので、右附帯決議による裁決の流用は許されないものであると述べた。(証拠省略)

被告指定代理人は先づ本案前の抗弁として本件買収令書が原告等に送達されたのは昭和二十四年一月十一日であり、且原告等が本訴を提起したのは早くとも同年二月二十六日であるから、本訴は自創法第四十七条の二に定める一ケ月の出訴期間を経過した後に提起された不適法の訴であつて却下せられるべきである。と述べ、本案につき「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として別紙目録記載の本件各農地につき原告主張の各日にその主張の如き買収計画樹立異議却下決定訴願並びに訴願棄却の裁決のなされたこと、被告が原告主張のような農地買収令書を原告等に交付したことはいずれも認めるが、その余の原告主張事実はこれを争う。即ち訴外虎姫町農地委員会は当初本件各農地の買収の時期を昭和二十三年十月二日と定めて買収計画を樹立したところ、原告等より異議訴願があつたため右十月二日までに買収手続を完了することができなくなつたので、改めて買収期日を十二月二日と定めて本件買収計画を立て直すことにしたものであるが、訴外滋賀県農地委員会は同年十月十八日右訴願を棄却する裁決をなすに当り、原告等から新たに立てられた本件買収計画についても同様訴願のあるべきことを予想し、手続の簡略を期する目的で右裁決と同時に「本裁決に基き市町村農地委員会が改めて買収計画を定めた時再び本訴願の提起があつた場合本裁決をもつて当該裁決をなしたものとする」との附帯決議した。然るところ原告等は同年十一月二十九日本件買収計画に対し再び県農地委員会に訴願を提起して来たが、その内容は前の訴願と殆んど異なるところがないものであつたので、前記附帯決議の趣旨により直ちに棄却せられた結果となり、よつて県農地委員会は十二月一日右買収計画を承認し、被告は右承認に基いて本件買収をなしたものであつて、毫も原告主張のような違法の点はなく、同月二十四日の県農地委員会の裁決は、原告等の訴願の理由なきことを再確認したものに外ならないと述べた。(証拠省略)

三、理  由

第一、よつて先づ原告の本訴請求中無効確認の訴について考えてみる。

(一)  被告は本案前の抗弁として、本訴は自創法第四十七条の二所定の出訴期間経過後に提起された不適法の訴であるから却下せらるべきものであると主張するが、自創法第四十七条の二は行政庁の違法なる処分の取消又は変更を求める訴(所謂抗告訴訟)についての規定であつて、本訴の如き行政処分の無効確認を求める訴にはその適用がなく、この種の訴はその無効確認を求める利益の存する限り何時でもこれを提起することができるものと解すべきであるから、被告の右抗弁は採用し得ない。

(二)  そこで進んで本案につき審究するに、別紙第一目録中末尾記載の字西楽千五百十二番の田一反八歩を除く爾余の農地が原告松本ふね同じく第二目録記載の農地が原告松本みゑ同じく第三目録記載の農地が原告中川かつゑ同じく第四目録記載の農地が原告草姥美代子の各所有に属すること、訴外滋賀県東浅井郡虎姫町農地委員会が右各農地(字西楽千五百十二番田一反八歩を含む)につき昭和二十三年十月二日を買収期日とする農地買収計画を立て、これに対して原告等より異議訴願があり、同年十月十八日滋賀県農地委員会が訴願棄却の裁決をなしたこと、その後虎姫町農地委員会は右買収計画を取消した上改めて同月二十二日買収期日を同年十二月二日と変更した買収計画を樹立したので、原告等は再びこれに対し異議を申立てたが却下され、さらに滋賀県農地委員会に訴願したところ同年十二月二十四日訴願棄却の裁決がなされたこと、竝びに滋賀県農地委員会は右裁決に先立ち、同月一日この買収計画の承認決議をなし、該承認に基いて被告が同月二十日附買収令書をもつて、本件農地の買収処分をしたことはいずれも当事者間に争いがない。従つて右事実からすれば、本件農地の買収における被告の買収令書の発布は買収計画に対する原告等の訴願につき県農地委員会の裁決がなされない以前に行われたものなることは明かである。被告は、滋賀県農地委員会では昭和二十三年十月十八日前の買収計画に対する原告等の訴願を棄却する裁決をすると同時に、虎姫町農地委員会が改めて本件農地について買収計画を定めた場合、原告等よりさらに同様の異議訴願が出されることを予想し、再び原告等より訴願の提起があつたときは右の裁決をもつて当該裁決をしたものとする旨の附帯決議をしているので、原告等により同年十一月二十九日に提起された再度の訴願については、右附帯決議の趣旨に基きこれが提起と同時に棄却の裁決がなされたと同一の結果になると主張し、証人黒川善治郎、同村上澄の各証言及び右証言に徴して全部真正に成立したものと認められる乙第一号証等によれば、被告主張の如き附帯決議のあつた事実はこれを推知し得られるけれども、凡そ行政官庁がその処分につき訴願の提起をうけたときは、その審査をなした上何等かの裁決をなし、その結果を本人に告知するを要することは訴願法の規定によつても明かであり、殊に本件自創法による農地買収計画に対する訴願の如く、裁決自体一種の行政処分として、これに対し行政事件訴訟特例法に基く民事訴訟の提起が認められている場合においては、特に然りといわねばならない。滋賀県農地委員会の前記附帯決議は要するに同委員会が原告等の訴願につき昭和二十三年十月十八日になした裁決を後の十一月二十九日の訴願の裁決として、流用することによつて、訴願について何等の判断をも要せず、当然前と同様の裁決があつたものとすることをその内容とするものであつて、かかる決議は上敍の趣旨により到底その効力を認め難いから被告の右主張は採用し得ない。

かくして、以上認定の限りにおいては、県農地委員会が十二月一日になした本件買収計画の承認には訴願裁決を経ない以前になされた違法があり、被告の買収令書の発布もその当時としては同様前提要件を欠く瑕疵を免れなかつたことは確かに原告の主張するとおりであるけれども、さらに飜つて考えてみるのに、本件農地についてはさきに虎姫町農地委員会において買収期日を昭和二十三年十月二日とする農地買収計画が立てられたが、原告等より異議訴願があつたため、右買収期日たる十月二日までに訴願の裁決をなし得ない結果となり、よつて虎姫町農地委員会は、同年十月二十二日に至り改めて買収期日のみを十二月二日と変更し、他はすべて右と同一内容の買収計画を立てるに至つたものであり、そのような関係からして、新買収計画に対して原告等より再び同一内容の異議訴願が出るであろうとの予想の下に、滋賀県農地委員会は手続の簡捷を計るため上敍の如き附帯決議をしておいたところ、予想通り十一月二十九日になつて原告等より再び訴願の提起があつたが、買収計画に定めた買収期日も差し迫つていたので正式の裁決を後廻しにして右附帯決議の趣旨により右訴願棄却の裁決があつたものとして、取敢えず買収計画承認の決議をなし、被告もまた右承認に基いて十二月二十日附をもつて買収令書を発布したものであることは本件口頭弁論の全趣旨に徴して明かであり、そして同月二十四日に至つて県農地委員会が改めて原告等の訴願を棄却する裁決をしていることは当事者間に争いのないところである。故に、前記の承認並びに買収令書の発布は頭から訴願裁決を無視してなされたというのではなく、たまたま県農地委員会が上敍附帯決議を有効のものと考えたためにその手続において前後を来したものに外ならず、しかも被告の本件買収令書が昭和二十四年一月二十八日になつて原告等に送達され、同日買収処分がその効力を生ずるに至つたことは原告等の主張自体によつて明かであつて、それまでに買収計画についての訴願裁決及び承認があつたことは上敍のとおりであるから、本件買収手続に上敍の如き順序の前後があつたにしてもかかる瑕疵は本件買収処分に致命的の影響を及ぼしたものとはいい難く、従つて右買収処分が殆んどなきに等しい無効のものであるという原告等の主張は採用し得ない。

(三)  なお原告松本ふねは、本件字西楽千五百十二番地の田一反八歩(右西楽は西薬の誤と認められる)の農地の買収処分に関し、該農地は原告ふねの所有でないのに、これをその所有農地として買収したのは違法であると主張してこれが無効確認を訴求しているが、かかる場合には誤つて買収処分をうけた右農地の真の所有者においてその取消を求める利益を有するに止まり、他人の土地の買収処分によつて何等権利の侵害をうけない原告ふねからその無効確認を求めるが如きは、訴の利益なしとして棄却を免れない。

第二、よつてさらに原告等の予備的申立にかかる本件買収処分取消の訴について審究するに、原告等が昭和二十四年一月二十八日に本件買収令書の交付を受けたことはその自ら主張するところであるから、右の訴は自創法第四十七条の二の規定により原告等が買収令書の交付をうけた日から一ケ月後である昭和二十四年二月二十八日までにこれを提起すべきであるに拘らず、原告等は昭和二十六年四月九日附準備書面により訴を拡張することによつて右の申立をしていることは一件記録上明かであるから、右は出訴期間の経過後になされた不適法の訴として却下せらるべきものである。

以上説明のとおりであるから、原告等の本訴請求中無効確認を認める部分はその理由なしとしてこれを棄却し、取消の訴は不適法として却下すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小石寿夫 八塚英一 日高敏夫)

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